社会科学を学び、論文を書いていく大学院生たちに、Theatre for Peace and Conflict Resolutionという実践・方法論を論理的に示しながら、身体で感得していく実践のシアターワークを共有しています。学問の場に、身体性を含ませること。わりきれない、切り捨てられない、はっきりと線をひいて理論化・言語化できない人の心・内的な声・個々の人生の物語をすべて含んだ「私たちの身体」を、学問のなかでも お互いに大事に扱いながら、私たち人間の生の全体性を回復してゆくことを目指しています。
平和学・和解学における教育実践としてのTheatre for Peace and Conflict Resolutionの取り組みについて、Asian Studies Conference Japan 2019にて「Introducing Performing Arts to Teaching Histories and Conflict Resolution in Asia: Pedagogical notes」と題して、発表いたします。共同発表者は、CAMPUS Asia ENGAGE(多層的紛争解決・社会変革のためのグローバルリーダー育成プログラム)にて、プロジェクトをご一緒させていただいております、前国連職員で現早稲田大学講師の小山淑子さん、早稲田大学 政治経済学術院の梅森直之教授、美術史がご専門の成城大学・荒木慎也先生です。→ Asia Studies Conference Japan
Theatre for Peace and Conflict Resolutionは、慶応義塾大学の井本由紀さんのマインドフルネス、手塚千鶴子さんの内観療法、シアターワークを融合した取り組みを行っています。優しく静寂に包まれた時のなかで、いまここへの気づきを高めながら、母親との関係を幼少期に遡って丁寧に観想し、コラージュという非言語の領域で、意識に上がったものをイメージ化し、シアターワークでは そのこころ・からだの声に寄り添いながら、表に現われてくるものを結晶化していきます。そして、それぞれが、それぞれの世界と触れ合いながら、自他への慈悲・調和的なあり方を探求してゆきます。
Royal Shakespeare Companyのプラクティショナーは、シェイクスピアの戯曲の言葉の一つ一つを理解していくのはとても難しいけれど、最も大事なのは、それらを声に出して読んでみること、つまり、身体化してみることだと言っています。僕はシェイクスピア演劇を鑑賞する時は、その言葉を意味として理屈で理解していくのではなく、俳優というアーティストから発語される「音楽」として聴いていて受け取っています。言語の響きが美しく層をなしている音楽です。神道における祝詞なども、書き文字というよりは、音楽的な言霊として、それらが発語されていくことによって、一つの働きが生まれているのを感じます。
Stratford upon avonでの午後は、バーミンガム大学のThe Shakespeare Instituteで博士号を取得し、現在はワォーリック大学で教鞭をとられているシェイクスピアの専門家で、俳優・演出家という実践家としてもご活躍されている方と面会しました。その場では、来たる将来に、私の「Theatre for Peace and Conflict Resolution」におけるマインドフルネスや内観などを取り入れた東洋的な間において浮かび上がるシアターワークの世界を共有すること、そして、私は さらに深く 英国の彼らの「Teaching Shakespeare」の世界を学ぶことを誓い、英国-日本という双方向から知識・技術・感性を共有し、協同していくための具体的な方法について話し合いました。インスピレーションをたくさん受けた、本当に素晴らしいAfternoon Tea の時間でした。
今、そのイギリスは、EU離脱を巡る是非、メイ首相辞任で大きく揺れています。でも、あの頃のあの時代と比べると、英国は 驚くほどに 開かれて 安全で 居やすい国になっています。この国にいるだけで感じざるをえなかった疎外感はやってこないし、地下鉄で怖い思いをすることもほとんどなくなりました。アジアで生まれ育った僕は食べ物に困って困って仕方がなかったけれど、今では身近に本当に様々な食材や様々な国の多様な食事の選択肢があります。イギリスの「空気」は圧倒的に変わりました。一方で、世界の不均衡と軋轢から生じた悲しみと憎しみのテロ等が起こっていることも事実です。物事は複眼的に見れば、それぞれに様々な様相を呈しています。そのすべてが、それぞれの本当だと思います。Theatre for Peace and Conflict Resolutionは、演劇や表現を通じて、物事を多層的に見て感じて捉えていくための実践でもあります。